千葉大学工学部長 伊藤 智義
TOMOYOSHI ITO
昭和37年 北海道札幌市生まれ
平成元年 東京大学教養学部基礎科学科第一 卒業
平成3年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 修了
平成4年 同 博士課程中退
平成6年 博士(学術)(東京大学)
皆様に支えられて、工学部長として3年目を迎えることができました。私は2023年4月に工学部長の任に就きましたが、当時、大きな引継ぎ事項がありました。工学部100周年記念事業です。工学部は2021年に創立100周年を迎えましたが、新型コロナウィルス感染症の影響で記念事業が延期されていました。4年の歳月を加え、同窓会のお力添えを頂き、昨年12月7日(土)に記念祝賀会を盛大に挙行することができました。この場でご紹介させて頂けることを大変嬉しく、誇らしく思っております。尽力頂きました同窓会幹事の方々、教員及び職員の面々、そして日頃よりご支援頂いている同窓会会員の皆様に厚く御礼申し上げます。
千葉大学工学部は100年の歴史を重ね、卒業生の総数は実に5万人を超えています。工学は近代日本を築き上げてきた原動力であり、工学部の卒業生は多士済々です。そのことを再認識させられたのも100周年記念事業でした。記念式典では卒業生お二人から記念講演を頂きました。
お一人は藤田誠先生(東京大学卓越教授・千葉大学特別栄誉教授)です。合成化学科を卒業されています。記念講演会では「自己組織化に魅せられて」というタイトルで新しい化学手法を切り拓いていかれた過程を、千葉大学工学部での学生時代や教員時代を交えながら、非常に興味深くお話し頂きました。藤田先生の開発された「結晶スポンジ法」はX線結晶構造解析に画期的な変革をもたらしましたが、ベースになったものは千葉大学工学部助手の時代の研究だったとお話しされていました。藤田先生の研究業績は高く評価されており、毎年ノーベル賞候補にあがっています。
もうお一人は宮下芳明先生(明治大学教授)です。画像工学科を卒業されています。記念講演会では「『味覚メディア』の開拓」というタイトルで、紆余曲折がありながらも常に前向きに研究開発を続けられている姿勢を非常に楽しくお話し頂きました。学部4年生のときは音楽にのめり込んでCD制作の会社を立ち上げた経験を持ち、卒業後は文転して富山大学大学院教育学研究科で音楽教育を専攻し、博士課程は再び理系に移って北陸先端大学院大学で博士(知識科学)の学位を取得されたとのことです。寄り道をしているようにも見えますが、その過程がすべて現在の宮下先生に繋がっているような気がしました。タイトルにある『味覚メディア』というのは、味覚をコントロールして実際の食べ物と同じ味を再現する斬新な技術です。例えば、電気の力で塩味を増強することを実現し、アレルギーで口にできなかった食べ物をアレルギー物質なしで再現することを可能にしています。これまで食べることができなかったものを口にしたときの笑顔を見ることが大きな喜びと語っていた宮下先生の笑顔がとても印象に残っています。宮下先生は2023年のイグ・ノーベル賞受賞者であり、開発された技術は多くの企業から注目されています。また、今年度からは千葉大学客員教授として「工学基礎」という導入科目の中で工学部の1年生全員に対して特別講演を行ってもらっています。
お二人のお話は、大きく分ければ「基礎科学」と「応用技術」という対比を感じさせるものでしたが、共通していることは、それぞれが非常に独創的で示唆に富んでいることであり、「工学」という学問体系の奥深さを再認識させられました。
さらにいえば、千葉大学工学部は全国の国立大学の中でもユニークな存在になっています。源流が「東京高等工藝学校」であり、他大学の多くの工学部が工業教育を中心に進展してきたのに対して、千葉大学工学部は工業意匠や写真などの工芸教育を含めた体系で発展してきました。東京高等工藝学校の卒業生には「アンパンマン」のマンガで著名なやなせたかしさん(工芸図案科卒業)がおられます。今年度はその生涯がNHK連続テレビ小説「あんぱん」で取り上げられており、5月にはNHKとの共催で「『あんぱん』パネル展」が松韻会館で2週間にわたって一般公開されました。
工業教育と工芸教育が融合した千葉大学工学部では、感性豊かな、より視野の広い工学教育が実現しているように感じています。工学は実社会と深く結びついた学問であり、感性は工学においても非常に重要な要素となっています。社会ニーズの変化に対応する上でも「工芸」というマインドは大切で、伝統的な工業教育に対しても良い影響をもたらしているように思います。視野の広い工学精神を持った多士済々な卒業生の方々が産業界を含む様々な分野で数多く活躍されておられ、千葉大学工学部の大きな誇りとなっております。
少子化が進む中において、各大学の工学部長が集まる会合では学生の確保が常に話題に上がるようになっています。そのような状況にもかかわらず、幸いなことに千葉大学工学部は受験生から高い支持が得ており、近年の志願倍率は5倍程度を維持し、国立大学の中ではトップクラスにあります。高い志を持った学生の皆さんに「入学して良かった」と実感してもらえるような教育・研究活動を続けていけるように気持ちを新たにしています。
次の100年に向けて…と言いますと少々先の長い話になってしまいますが、これまでの伝統を継承しつつ、さらに発展した千葉大学工学部を築いていけるように、日々の教育・研究活動に取り組んでいきたいと思っております。今後とも、工学同窓会の皆様のご支援を賜りたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。